骨の髄までありきたり 山田太一さんの『早春スケッチブック』
さよならだけが人生だと悟り切るにはもう少し人生経験が足りないと思っています。
今日は脚本家の山田太一さんの訃報を読みました。
僕ら世代にはあまりに大きい影響を与えた脚本家の一人です。
代表作といえば『ふぞろいの林檎たち』ですが、『早春スケッチブック』もまた忘れ難いです。
「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ」
『早春スケッチブック』(山田太一)
少年時代にえらくショックを受けた名台詞です。
小さな幸せを抱えて生きる小市民を軸とし、そこに異物を混入して波風とする作品でした。
骨の髄までありきたり。
何と恐ろしい言葉なんだろうといまだに思います。
自分が何かに安穏としている時に、山崎努が言い放ってきます。
自分が何か好きになって惚れ込んでこだわって、そういうものに心底夢中になる。
それは打算計算や損得勘定などという世俗にまだ染まりきらない若者の特権です。
若い頃は何かに夢中になって、度を越すほどのめり込まなくてはいけません。
それは自然にそうなるものではなく、そうなるように努力して初めて手に入るものです。
だから若いうちほど、何かにのめり込んでどうにかおかしくならなくてはいけません。
凡人は歳を取ったらもうできないことです。
なんでもいいんです。
若いうちに何かにのめり込む訓練をしないと、大人になって大事なものが何もない人間になります。
少年の頃の僕にそういうメッセージを叩きつけた山田太一さんが、安らかに眠ってくださるよう。